バード・ウォチング No16 エピソードを語ることから生まれるもの②

 前号のAさんのエピソードを受けて、全体像の把握の視点からどのような支援展開が考えられたか、検討した。

  • 急な行事になって・・・

 Aさんは、作業をする心づもりでいたが、急な行事について説明されて折り合ってくれた。しかし、気持ちが納得しきれず、自分の役割を果たすことには躊躇していた。塗り絵で気を紛らせ、「キリの良さ」の間合いを取ってくれたが立ち直れず、3度目の誘い「好きな嵐の歌」の提案でようやくほぐれ、あいさつができた。

分かっていながら切り替えられない自分を快く感じられず、ダメな自分を突きつけられたことだろう。また誰しも弱さを持つわけで、そこに適切な配慮をして、追い込まなくても済む暮らしを提供したい。

  • 個別的な配慮が行き届いているか

 イレギュラーは基本的に避ける姿勢で、かつイレギュラーは起こりうることとしてどう対処するかである。変化への弱さ、不安・緊張の強さ、こうした未熟さには、その折々に個々の全体像に即した配慮が必要になる。今回は理解し折り合ってくれた。さらにメッセージへの誘いにはどんな手立てが考えられたであろうか。

  • 不安・緊張への配慮は・・・

今までの経過から―バス旅行で乾杯の音頭役、不安で食堂移動を渋る感触であった。「どうしたらいいかしら?」で好きな職員名を挙げる。好きな人と一緒に移動し、前に出ることで、気持ちが支えられ、役回りを果たすことができた。新たな事での不安・緊張があり、引っ込んでしまいがちなタイプでもある。そこでの立ち直りは大好きな人であった。セルフコントロールの前段階で人に支えられる経験を十二分にとること、人から注ぎ込まれる安心感が自信の土壌になっていく、これが原則的な解釈である。

  • 引っ込み型から想定できることは

 手近にある塗り絵を逃避材料に引っ込んでしまう。この逃避材料を与えたままで「キリのいい」ところでは立ち直りが難しい。塗り絵の件は想定されることであり、「急な」事柄を伝える時点で塗り絵を先取りして、用意してあげる手立ても考えられる。行動傾向を想定して、どんな配慮が要るか、この適切さを生み出すのが全体像を把握することである。

こうした配慮はタイミングが意味を持つ。「急な」出来事を伝える時点で「こんなことをお願いしたい」と同時に「その後、大好きな塗り絵を用意しておくからね」と自分の気持ちが逃げ込む前に安心材料を先取りできたら、心の準備がし易いと言える。あらかじめならば、そんな約束が成り立つであろう。自ら塗り絵に入ってからでは否定された、規制された感が強く残り、かたくなさが出てきてしまう。

  • 譲歩策に含まれる問題性

譲歩策「嵐の歌」で上手く切り替えられたが、大好きな事だけに特効薬的に期待できる。即効性もあり安易に使いたくなる。不安・緊張への配慮やあらかじめの手立てなどきめの細かさを忘れさせてしまいかねない。結果が出るからいいのではない、気持ちをどう整えるかに焦点を当てなければ、大人の歩みにつながらない。

改めて、こんなことを考える機会になった。