バード・ウォチング No26 暮らしぶりをつくる関わり

2018/1/4 統括 村瀬

  • 分かってあげられなかったが・・・

11月半ば頃からIさんが「***クリスマス****、プレゼント****、CD****」と伝えてくるようになった。残念なことに何を言っているのか分からない。クリスマスプレゼントであることはすぐ分かったが、肝心なプレゼントの内容が分からない。でも、本人は分かってくれたか確認したい思いが強く、間合いの取り方から復唱して欲しいようであった。気持ちが分かるだけに困惑した。

何度聞いてもきちんと答えられない。そこで、分かったところを糸口に手繰り寄せることにした。指を折りながら、《一つ目は、12月22日(金)クリスマス会はまだまだ。二つ目は、プレゼントはロボット・コメディCDをもらいたいの。三つ目は、井上さん(管理者)かお父さんからもらうの。》なんとか本人の思いにだんだん近づいてきた。

  • いつの間にか気持ちがつながって

その都度少し時間をかけながら、と言っても2~3分程度だが、毎度の確認をしてきた。確認の型ができてくるとスムーズになり、このやりとりを本人も楽しみしている感触が伝わってきた。繰り返す丁寧さから分かり合うもの、関わりを期待するものに気づかされる。

そうこうするうちに〝プレゼント″の確認行為から、本人の思いの交流に軸足が置かれてきた。「Iさんは、それがとても楽しみなのね」と(あなたの気持ちがよく分かりましたよ)とのニュアンスを込めることにした。すると、この間合いの感じが少し変わって、私自身が手応えと共にご本人が来るのを心待ちにしている一面も生まれてきた。だから私の変化は彼の変化に引きずられたものであった。

私が忙しそうにしているとそっと閉めるなど遠慮したり、ちょっと間をおいて再度覗いてくれたり、さらに「ごめんね。また、今度ね」で《今は、ダメか》と受けとめてくれる、折り合う関係になってきた。一方的に早口でまくし立てる勢いが、私に合わせてくれる素敵な気配りに変わり、すると、私もますます丁寧に接するようになった。

  • そして、期待が頑張りに代わってくる

一か月もすると「青い鳥のサンタさんからもらうの。よかったね。だからうれしくってパン工房を頑張っているのね。」肯定的なやり取りに、本人から「オー」のガッポーズで締めくくれるようになっている。

関心を持って接するとだんだん見えてくるものと共に、本人も私も感じ方が変わってきて、やりとりが楽しみになり、噛み合ううれしさが滲み出てくる。Iさんは、自閉症の方だが分かってもらえた安ど感が情のつながりを生み、二人して楽しみにするやり取りに代わってきた。

  • クリスマス当日から・・・

当日は、もう何も言ってこない。「確認しなくって大丈夫なの」とおもんばかるが、Iさんは、「プレゼントはもらえる」と確信しているかのようでにこやか、満足感を感じさせる笑顔であった。顔を合わせると、「○○さんが6時30分に来るの」と違う話題を伝えてくる。「よかったね」と応じていくが、このやり取りは1度だけ。青い鳥以外の情報を私に教えてくれたのかなと思う。

「このことはこの人」とつながって、区切りがつけば次の関心事が生まれてくる。これも人付き合いのタイプと承知する。色々なものをもらい、与えた相互の関係であったこと、人と人とのつながりの不思議さでもあり、こんな暮らしぶりもいいなと感じたエピソードである。