バードウォッチング NO37 私の実践―受け止めることから始めて

H.30.8.1  上田主任 初村 啓義

○環境調整の一手を経て

 Tさんは数年前より情緒的な不安定さが見られるようになり、昨年度より小グループで活動をする作業所へ移りました。少人数で刺激も少なく、とても落ち着いた環境ですが、周囲のちょっとした会話や視線に誘発されて大声で反発したり、イレギュラーな人の存在やちょっとした物音までもが彼にとっては刺激となり、手が出たり、足が出たり、グズグズ切り替われなかったり・・・、不安の背景が気になりました。

 そこで行ってきたのが個別対応。初めのころは食事をしている時間以外はほとんど外へ出ている、そんな状況でしたが、徐々に皆と過ごせる時間も増え、現在では誕生会や創作活動など、だいぶ仲間と折り合って穏やかに参加できるようになりました。

○甘えや我がままも受け止めながら

 いつもの公園清掃、真夏のこの日、私は伸び放題の笹の葉や雑草、落ち葉と格闘するように忙しく作業をしていましたが、Tさんは頻繁に「お腹痛い・・・、頭痛い・・・。」と私を呼びアピールします。普段通り「痛いの痛いの、飛んでいけ!」と対応し、額に汗が垂れてくれば「汗、あせ・・・。」と呼ばれ「汗拭こうね。」と自分のハンカチでないとダメなので、彼のポケットからいつものハンカチで汗を拭きます。蚊が近づけば「かゆい、かゆい~!!!」と呼ばれ「か~い・かい・かい♪」と怪物君の歌に合わせ掻いてあげる、これでニコッと切り替われる。といった感じで、甘えやらアピールやら、子供っぽさを出して来るようになってきたところです。暑い中の作業、何とかこの日も彼の出す要求に応えながら無事終えることが出来ました。

○甘えられる関係から安心を得る

 彼のこの一年を振り返ると、小柄で幼さがあるとはいえ30代の青年がオンブ、ダッコを求めてきたり、私への甘えがはっきり出てきた。甘えられる人、受けてくれる人として『人』の意味が実感できたようです。私たちが大事にしてきたことはまさにそこで、人との関りの中から安心感を注ぎ込むことでした。紆余曲折ありながらでしたが、「あなたが大事」を軸にした手応えです。

 「私がいるから大丈夫!」とドッシリ受け止める、そんな心持ちで彼と関わっています。とはいえ私も未熟なので、そこには忍耐力も問われますし、支援者としての度量が試されていると自戒しながらの日々でした。

○不安の背景について

 この甘えの強さはなぜ?と思いつつも、私への依存をテコに折り合う姿が導き出されたところです。人に支えられて人との出会いの安心感を得てきたのでしょう。今までこの点に行き違いがあったのかも知れません。祖父が亡くなったことを受け止められなかったり、移動があったり、本人にとって思わぬ形で人的環境が変わってきた現実もあり、納得づくの暮らしの大切さ、デリケートな心情や知的障害の生きづらさの根っこも感じたところです。

 障害により分からなさから不安や緊張を抱える生活になる。その分、肌理の細かな配慮ができたらと改めて思う。