バード・ウォチング NO29 現場の気づきから②

 現場からのエピソード―こんな風に出会っています、こんな手ごたえを感じています、こんな人なんだと新たな発見をして付き合っています、など人としての出会い方、心の揺れ動きに着目して簡潔に綴っています。こうした出会いを通じてそれぞれの方の全貌が把握され、人生を支える土壌になっていくことを期待しています。

  • 本当は気まぐれではなかったのです(池田重剛)

木曜日の午前中の外作業は、主に献品受け取りやリサイクルショップの黒ビニール袋や段ボール、書類運びの仕事です。そこに参加しているBさん、スタートもゴールもシンプルで分かりやすい動きですが、気まぐれで動けたり渋ったり、なかなか動けなかったり・・・。

ところが、ここ最近、加わった新しい仕事はすこぶる積極的なのです。それは金曜ランチのお肉購入、この仕事は特に説明も依頼もしていませんが、パッと目的が呑み込めて、必ず3階の調理場まで運んでくれます。

 主体的になれないことや自律的になれないのは、実は何のためかがもう一つ切実感を伴って感じられないからだったようです。お肉の件は、まさに3階に運ぶことでおいしくなるもの、ぼくが持って行かなければと責任感も期待感も人一倍なのでしょう。

 こんな新たなお手伝い的な役割の楽しみから、気まぐれのイメージが変わっていく機会になりました。

  • いっぱい気遣いをもらってきたから(船山宏美)

 外作業にいったCさん、カラオケができず「歌いたかったな~」と惜しい様子。思いのこもった一言に応えて「じゃ、昼休みに特別カラオケをしよう!」と提案。「いいの?」と目を細くして受けてくれた。さて、昼休み、カラオケセットを準備したもののCさんは何だか乗り気になれない表情。歌わないの?と聞くと「うるさくない?大丈夫?」と。確かに、周りにはお昼寝したり静かに休憩する姿が目に入る。「僕、動画、見るだけでいいよ」と友達と戦隊ものの動画を見て過ごしました。

 自分のために用意されたカラオケ、それよりも仲間のことを思い遣ってくれたのです。改めてCさんの気遣いに感心させられた一コマでした。仲間関係は、いろいろな凸凹がつきものですが、気づかってもらったり、特別な配慮をされたりすることが基本のベースになって、いつの間にか自分の中で反転して、思いやる心情に育ち、思わぬところで滲み出てくるのでしょう。うれしい一言でした。

  • 「俺って、頼りになる?」(篠崎 徹)

 「俺、(仕事を)たくさんやったよね?」と尋ねてくるHさん。「やっぱり、(俺は)頼りになる?」とも。「もちろん。また頼みますよ」と返すと、納得した表情になる。こうしたやり取り通して、自分自身を勇気づけているように見えます。

 それは、自分のことは自分だけではよく分からないから、との解釈ができるそうです。周りから、どんな風に見られているかを伝えられて”そんな自分”を感じ取っていくものだというのです。また経験を踏んで自分の得手が分かってきても”これでいいはずだけど…”と自信を持つまでには場数が必要だと言われます。

 きっと新人職員である私へのアピールもあるのかもしれません。「俺って、働き者なんだよ、知ってる?」「俺のことちゃんと見てくれよ、頼りにしてよ」こんなことも言いたいのかもしれない、と感じたやり取りでした。