2023.5
日野青い鳥福祉会
「私にとってのエピソード」第3弾は「明日の力」である。エピソードは今を大事にする視点です。同時に明日の生きる力を育んでいる今です。それは利用者の、職員の、法人の明日でもあります。
さて法人の目標の一つに職員満足があり、生活支援の手ごたえからくる満足感です。相手のことを考える視点を深め、人間関係を築くことで感じられるものです。いつの間にか人の役に立っている自分になっている。そんな自分に育てられていく、ここに職員満足があるとの見方です。エピソードが「明日の力」を養うのです。
樽見 理沙 「協力し合い、高め合っていける」
*人を好きになるきっかけ
エピソードは、利用者のことを素材にしたものですが、書いた職員の考え方や感じ方もよく表れています。エピソードを読んで利用者の姿を「素敵だな」と感じるのと同じくらい、毎回職員に対しても感動します。「こういう意図でこういう支援をされたのか」とか、「この職員は、こんなふうに物事を見て、感じる方なんだ」等々。エピソードから利用者のことをより深く知り、好きになっていくのと同時に、職員たちのことも、ますます好きになっていくのを感じます。同じ仕事に携わる仲間のことを好きになるのは、一緒に仕事をする上でとてもメリットがあることだと思います。お互いに気持ちよく仕事をし、協力し合い、高め合っていけるからです。
*ともに自慢の歩みに
日々はあっという間に過ぎ去って、記憶は薄れていってしまいますが、文章は残ります。たとえば10年後、私たちが書いてきたある利用者についてのエピソードを、誰かが全て読み返したとき、それを読む人は、どのように感じてくださるでしょうか。「いいことも悪いこともありましたが、この方は、こんなにも一生懸命に、すばらしい時を過ごしてこられました。そして、それをあおいとりの職員は見守り、支えてきました」と胸を張って自慢できる、すばらしい記録として残るだろうと思っています。
村瀬 精二 「全体像を描く土壌」
●行動に振りまわされるな
この命題は中村健二先生が繰り返し指摘されたものです。行動に振り回されて一喜一憂したり、マイナス行動に接して規制が強くなり、生きづらさを上塗りする関わりを危惧した警句です。
エピソードも一面的には行動です。違いは、「あいうえお」の実践から生まれる心情に着目してすくい上げていることです。エピソードの〈こんなことに出会った〉は暮らしやすさへの気づきです。きっかけになった関わりを振り返り、次につなげる手立てとしています。
●目に見える成果として評価される
エピソードは利用者の足跡を残すもので個人史と位置付けています。ところが、それは職員にとっても職業人として成熟過程の証しです。
「文は人なり」で、このエピソードはまとめた「わたし」をあらわしているのですから、どんな風に出会い、どんなふうに関わり、何を大事に、どう配慮して、どう解釈して、どんな手ごたえを喜んでいるか。まさに職業人としての成果であり、利用者のエピソードはわたしの手応えと重なっているものです。
●わたしのつき合い方を問うもの
ところで「目に見える成果」としてのエピソードは、成果主義として行動に着目するものではありません。行動のでき具合に価値を置くものとは真逆に位置付けられます。
ここでの成果はエピソードに流れる気持ちに着目して不安、緊張、焦り、心配なこと等を汲み取って配慮につなげることです。また手ごたえ、面白さ、開放感、満足感、安心感、さらに自信に反映させていく手立てです。この配慮や手立てが暮らしやすさにどう反映されているかです。
折々にエピソードを読み返しています。この人のこんな一面が持ち味だから、こんな全体像が浮かび上がる、この兆しが先々の姿に定着していくためには…。エピソードは明日の全体像を思い描く土壌と言えます。