バードウォッチングNo.86 「エピソードの担うもの」

2023.4.21 
理事 村瀬

1,生活支援は生きづらさを支える

①    人生の歩みを支える

成人期の生活支援は、思春期から老齢期にかけてじっくり関わることで着実に変容する時間をいただいています。
 この間、障害を持ちながらも楽しい生き様や努力する姿を支えるとともに、障害に伴う生きづらさと葛藤しつつ真摯に立ち向かってゆくことになります。能力や社会性の未熟さ、またストレスから生じるそうせざるを得ない苦しさを推し量りながら深追いや負の上塗りに陥らないよう心がけます。障害者であっても、努力も頑張りも我慢も時に必要になるのですから、その方に合った個別の見立てを設けて見守り、受け入れる視点を生み出しています。

②    人間関係が反映される

常識や正解が成り立ちにくい領域ですから、関係者が具体的に語り合うことで、どうあったら良いか模索する姿勢で臨んでいます。
 障害を正しく知って、個人差を承知して適切さを見出すことになりますが、実際には暮らしやすさに向けて日々の出来事を振り返りながら手探りですすめています。周りからどう見られているか、この人間関係が穏やかさを決定するものです。結局、原点に立ち返り関わりの姿勢を確認することになります。〈今ある姿を認めることで、次の姿になるエネルギーが生まれる〉この〈「ある」から「なる」へ〉を実践的に模索しています。

③    エピソードが伝える幸せ

エピソードは、身近な人たちとのやりとりの中に人の幸せがあることを伝えられます。誰もが、できることや分かることの能力的な幸せを味わっています。また、それとは違う幸せも感じています。特に知的障害を持つ方たちにとって対人関係から注ぎ込まれる安心と満足による幸せ感が大きいことを実感しています。
エピソードには支援の感性が詰め込まれています。それは相手の気持ちをくみ取る知恵です。気持ちが適切にくみ取られると手ごたえを得て、互いにうれしくなります。さらに支援員として地力を身に着ける土壌と言えます。

2,エピソードの根っこ

 「中村健二先生」―恩師です。日本の知的障害福祉の草分け・糸賀一雄のお弟子さんにあたり、「この子らを世の光に」に若き中村先生の支援ぶりが描かれています。
 先生の生活支援のあり方が根っことなってエピソードまとめが始まりました。全体像の把握、行動に振り回されない、手ごたえを大事にする、この3点が印象深く刻み込まれています。この道を究めた先達として遊び心のある品の良い自由さを備えている方でした。
 一方で、厳しい先生でした。〈手ごたえ〉の点では、巡回や記録を重視され朱筆で原則的なアドバイスを頂きました。〈行動に振り回されるな〉と「そうせざるを得ない心情」の洞察を求められました。気持ちが解釈できたら受けとめられるというのです。さらに〈全体像の把握〉では今ある力をどの様に使ってどんな暮らしになっているか、暮らし方を左右する人柄はどのように形つくられたのか、と全貌への着目を説かれていました。
 実践的な視点で考えてまとめること、ここにエピソードの原点があります。

3,関わりとエピソードが循環する

①    共感をベースに関わりとエピソードが循環する

 青い鳥の利用者は20代から70代まで幅広い年齢層になります。能力開発よりも培った力をいかに発揮して充実した暮らしにするかに力点が置かれます。また活動ではやり切った実感を得られるように一緒に臨み、作業を介して工賃に、創作では作品化すること、余暇では仲間と楽しむ等々、本人が手ごたえを感じられることを意図しています。
こうした比較的、共感しやすい素材から関わることの楽しさを味わい、手ごたえを得ます。ここからエピソードまとめが始まります。いわば表街道の道行きになります。

②    仲間の支えをベースに関わりとエピソードが循環する

一方で、常識を超えた配慮を必要とすることも多々あります。時にめげたり弱気になったり、耐えたり我慢したり、やり過ごしたり淡々と自制することが求められる事態です。つまずきや二次障害的な自己防衛等、彼らは多様な側面を抱えています。こうした出会いは、仕事とはいえ生身の人としては苦しいことです。そのうえで〈そうせざるを得ない心情〉を洞察しつつ、どう解釈し受け止められるかにかかってきます。
共感しづらい事態に立ち向かうには仲間が必要です。課題の意味や関わり方を教わり、 かつ心理的にも支えられます。(―)面への包容力を喚起してもらえます。私の対応の問題ではなく、二次障害がさせていること、淡々と接することの大事さに気づかされます。こうして生きづらさの上塗りを避けられるのです。
加えて(+)面に着目することを改めて意識させられるはずです。仲間の姿勢に揺さぶられて(+)面のエピソードが書けるようになります。(+)面に着目することで本人に安心感を注ぎ込み、自らも手ごたえを確認することにつながります。