バードウォチングNo.91 エピソードは生活支援の「目に見える成果」

2023.6.29
日野青い鳥福祉会
理事 村瀬

 生活支援の原則的な目標として「円満な人柄」に向けて共に努力することが挙げられる。生活支援は人間関係で成り立つものであり、なかでも「人柄」は周りから注ぎ込まれて形つくられると捉えるから“共に努力する”意味がある。何を注ぎ込まれてきたのかによって人柄が大きく左右され、円満になるか、偏り歪みを持つかを実感する現場である。こうした視点でみると、エピソードは今何を注ぎ込んでいるのかの手応えでもあり、経過の姿でもあると言えそうだ。

●47本のエピソードを5層に分ける

 この4~5年のエピソードの内容からエピソードが進化していることを思う。エピソードの奥行きから5層に分け、かつテキスト「支援のまなざし」を参考に視点を見出した。

①    活動のありのままに焦点を当てる。こんな活動をこんな風に取り組んでいると(+)面に着目しクローズアップする視点が堅実な歩みをリードする。「あなたはどんな人?」を日常の暮らしぶりから語る。

②    持ち味を生かした暮らし方を示す。こんな持ち味を生かす場があって、こんな暮らし方が自己肯定感につながる。また誰もが「わかってもらいたい」と思っているのだから受け止めていく。この関わりがあって共育に進展する。

③    関わり方のズレに気づかされて試行する。かみ合わなさがあり、模索しながら気づかされたこと、新たな発見、解釈、受け止めであり次の兆しにつながる糸口になっていく。鋭い感性で支援者の気配りがズレていることを教えてくれる。どこがずれているか思い当れば努力でき、支援が一歩進む。

④    歩みの節目としての兆しが表れてくる。仲間との関係から自分一人ではないことに本人が気づくなど視野が広がり、出会い方の工夫や興味関心を引き出せば自発性につながる。

⑤    関わりが多面的になり新たな進展をする。また失礼をしながらも自分たちの足りなさを気づかせてもらう経過になる。行動が何を表現しているかの洞察がてこになり支援が深まる。

●エピソードは水戸黄門的であれ

 黄門様一行が事件に巻き込まれると助さん、格さんに風車の弥七やお銀さんが加わり“振り返り”をして真相を明るみする。今までの“経過を踏まえて問題の本質”に気づかされ、葵のご紋という“生活支援の原則”に立ち戻る。こうして地域の発展につながるというわけだが、支援においても関連課題にも波及して暮らしやすさが生まれるのでしょう。この庶民心情の受容に徹する勧善懲悪の立ち振る舞いは大いにうなづける方針である。

 エピソードもこの世直し物語的に語ることも一つ、起承転結を組み込めたら支援の方法論に進化していくことも描けそうだ。

●エピソードを生み出す場

 さてエピソードを生み出す場は一次的には日々の実践である。出会い、働きかけ、一緒に動き、共感的に交わることで、楽しさも大変さも共有することになり、こんな出来事が生まれる土壌になる。

*振り返りの土壌

 人の心情は行動の奥に潜む面が多いため接する側が感じとる領域である。内面の洞察を求められるが、「私」の感性が問われるものだけに一人では限界がある。振り返りの意見交換の場は、仲間の実践を通して個々を多面的に知る機会。新たな一面、新たな解釈に触れ、新たな方針を生み出す。また行動に振り廻されたり一喜一憂せずに、彼らの感性が何をとらえているのか、何を伝えたいのかに気づく場になっている。それがエピソードを深める素地として作用する。 

*振り返りは、いわばミニケーススタディであり、モニタリングであり、個別支援計画の見直しである。直近の暮らしぶりを踏まえて実践的な関わり方を生み出す場であり、エピソードの進化に欠かせない場になるものだ。

 生活支援の手ごたえ、〈目に見える成果〉として「振り返りの場」の重要さを再認識する必要がある。ただ生活支援の実務終了後の時間であるため効率性を考慮して進めることがポイントになる。