バードウォッチングNo.71「壁にぶつかって」

R3/5/12

グループホーム青い鳥

所長 井上

 

4月はいろいろなことが変化する季節。シフトや場所や職員が変わるのは利用者さんにとってはとても大きいこと。利用者さんの中にはいつもと違う状況でなんだか落ち着かなかったり、鬱屈するような心情に支配されたり…。Aさんの場合は、それが事業所へ足が向かず慣れ親しんだ空き家になっている実家に帰ってしまうことになりました。

無断欠勤の連絡を受けて、もしやと思い自宅まで。呼び鈴を鳴らし、しばらくするとドアが開きAさんが出てきました。「なにかあった?迎えに来たよ」と咎めるような口調にならないように、細心の注意を払います。「ホームに戻ります」という彼。「時間にならないと職員はいないし、いまAさんが気になっていることを聞きたいな」と、やんわり帰寮を断りました。戸惑いが顔ににじみ出ましたが、「事故でなくて良かった」と伝えると心なしか緊張が薄れました。

勤務地に到着し、2階で話を聞きます。「4月はいろいろ変わって苦手です」「もう少しお伝えを丁寧にすれば良かったですね」。こんなやり取りをすると、亡くなったお母さんのこと、実家の今後のこと、主治医との会話の内容、作業活動で自分ばかり手伝いを任されること、お勤めに出ていた頃のことなど堰を切ったかのように話をしてくれました。話の内容は大昔のものもあれば、愚痴っぽいものや将来の不安のようなものまで。同性の所長との面談となれば構えてしまうところですが、彼も今回はよく語ってくれました。「何かあったら、相談してくださいね」「日中の施設長ともお話してね」とお伝えして終わりました。

ホームに戻り、業務日誌を見ると異動のあった他のメンバー二人は支援員との会話でここ数日のあれやこれや話し、不安を吐露しているようでした。Aさんは普段の様子からクールにふるまっている風に見えて実は内面に不安をたくさん抱えて、しかも言葉での表現がしづらいという生き辛さを抱えているのだなと感じました。他のメンバーのように話ができ、思いをぶつけ解消してゆくことができない彼への応援は、「何か気になっていることある?」と折々に転ばぬ先のカウンセリングの場を意図して設けること。もう一つは、年齢的に“がんばれ、がんばれ”と言われてきたであろう世代です。陶冶的な教育的な関係は“おなか一杯”で食傷気味のはず。注意されても修正できない自分の壁や上手く気持ちを整理したり、伝えたりしづらい自分の限界的なものにぶつかりながら困惑している本人がいるのだろうと感じています。そうすると、本人の心情を推し量り、状況との仲介をする心づもりで接することが大事になると感じます。