バードウォッチングNo.94 青い鳥の生活支援の思い-生活支援の原則①

2023.9.19
理事 村瀬

人と人との関係で支える

 生身の生活者として、地域社会で暮らしていれば、スムースなこともぶつかってしまうことも日常的に生じます。そこで、身の回りのことも仲間関係もできないことは気持ちよく応援する、できることは自分のこととして取り組む、こうした生活の「介助の分」と「自分の分」を立て分けておくことでつき合いやすさが確保されます。

 「生活モデル」といいますが、生きづらさの要因を本人の障害にあるのではなく、周りの環境が整っていないためと捉えます。一方で「障害はあなたの問題だから、あなたが努力するべき」との障害克服型の医療モデルでは行き詰ってしまいます。個々の努力で乗り越える発想ではなく、対人・対物の環境を整えることで生活しづらさを軽減していく立場です。

 人は周りからどのように見られているか、思われているかによって「私」の気持ちの置き所や安定度が変わることを示しています。人の出会いは、「見る―見られる」「思う―思われる」こうした双方の関係で成り立っているのが実際です。私が(いいな)と見ていることは、そのまま(いいな)と見られている彼がいます。また、私が(うれしい)と思っていることは、(うれしい)と思われている彼がいるわけです。

 このやりとりから生まれる情感が人柄に反映します。自分の人柄は自分のことですが、自分一人では形作られるものではなく、周りの人たちからどんな刺激を注ぎ込まれたかによって形作られると言われます。この人間関係によって「私が作られる」との考え方を支援の原則に据えています。自分は自分だけで存在するのではなく、周りの相互作用の中にあるということです。

 さらに、人は人との関係の中に生きています。それは現実的に相互に影響し合う生き方をしていることになります。影響し合う関係とは相手の働きかけに応える応答的なやりとりや触発された感情が湧き出てくることになります。

「いま・ここ」を大事にすることから

 長野・明星学園の宮下理事長から「いま・ここ」を大事にすることから将来の姿を描く5点のアドバイスをいただきました。①ストレング(本人の強み)を生かすことは安心につながる気持ちを育てる。➁分かっている・できることから始めることで、支持的環境になり、伝えようとの気持ちが膨らんでくる。③いつもと同じにすることで、時間的な見通しが持て期待して待つことができる。④肯定的な評価は自信を育てる。⑤感じている・伝えたいと思っているとの前提に立つことで気持ちに寄り添える。こうした点こそ支援の肝なのだ、と深くうなずいているところです。

 「いま・ここ」の気持ちを「そう、そうなんだ」と受けとめてもらえば、分かってもらえたと安堵感が現実との折り合いをつけるゆとりとなり、立ち向かうことができるというのです。はじめから「こうしなさい」「やめなさい」と返されたら「こうして欲しい、こうしたい」という気持ちは行き場を失い、その思いを自分一人で飲み込み切れず、次への力が生み出せなくなります。本人の思いはどんな場合でも、その内容にいかんに関わらず、一旦は受け止めることはできるものです。行動を受け入れることはできなくとも「今はそんな気持ちなんだ」と気持ちは分かったというメッセージを出すことができ、この「受けとめ」が「わかってもらえた」との間合いを生み、次の展開が変わってくるものです。

 またもう一つは、先年のNHK障害福祉大賞でつづられている〈ママの幸せは僕の幸せでもあるんだよ〉という点です。くすぐったいいい方ですが、誰だって自分一人の幸せはないのですから、正にここだと思うのです。地道な思いの継続の中に歩んでいく姿の一端が実現されていることを通じて“こんな暮らしもいいものだ”と改めて受けとめています。

全体像を把握する

 各領域の行動能力を評価するアセスメントであらあらの力が把握できます。でも、これで本人のことが分かったことにはなりません。能力と生活力とは次元の異なる視点だからです。例えば、建築資材を集めても家は建てられません。この間取りで、この柱はここに据て・・・、と全体構想図が見えてこないと途中で歪みが出て頓挫するでしょう。

 持っている能力を使ってどのような暮らしを作っているか。なぜ、こんな行動をしがちなのか、このことで本当は何を訴えたいのかを洞察します。こうした疑問になんとか一つの見方を生み出していく実践の先に全体像の把握が生まれます。何歳だから、愛の手帳が何度だから、支援区分がいくつだから等々、発達視点や外枠の客観的な指標でその方の全体像を捉えることは適切とは言えません。

 今までの歩みの経過で、過欲求にさらされて不充足感がありはしないか。また比較されて負い目を感じていないか等々、こうした課題の不適切さに類するダメージがないか。さらに辛さ、悲しさ、淋しさを味わってきているのか、納得できないことを押し付けられてこなかったか等々、心理的なダメージはどうであろうか。逆に素直さ、人懐っこさ、穏やかさはどこから生み出された円満さなのかも振り返り、人柄のポイントとして承知してゆきます。こうした点が混じり合いながら全体像を作り上げてゆくのです。こんな生い立ちの反映の中に今の暮らしがあることを知って関わりを持つことになります。

 個々に障害の程度が違い、これまでの道のりが違い、喜びも悲しみも、楽しみも苦しみもそれぞれであり、その歩みの中でその方の人柄が形づくられてきたのだから、凸凹が多彩で個人差が大きいのです。生きづらさが違い、課題の出方が違い、そして得意や好きなことが違い個々の暮らし方が異なってきます。こうした過去の経緯が今の暮らし方を左右する全体像を作っているのです。持っている力でどんな仲間との暮らしになっているのか、これを全体像と捉えています。

 この全体像把握のメリットは現象や行動に一喜一憂しないこと、本人の根っこの生きづらさに焦点化して、現実の暮らし方を再整理する視点が生み出され、今何を大事にするかが絞れてくることです。