バード・ウォチング No32 「世の光」に通じる出会い

H30.5.9 日野青い鳥福祉会 村瀬

  • エピソードの語るもの

 新年度の家族会に当たって、それぞれの職員がエピソードを綴ってくれた。短いエピソードであっても、それぞれ心に残った一場面を切り取って伝えてきたものである。職員の感性にうれしくもあり、解釈を広げる中でこの歩みは必ずや素敵な大人の姿を具現化するであろうと感じた。

  また一つの出来事をどのように見るか‐行動に着目すると本人の問題と解釈しがち。心情に気付くと私との関係の在り方と解釈できる‐この基本的なスタンスの大事さも感じたことである。それは本人にとってどう見られているか‐周りから肯定的に見られることで自己肯定感が育まれる。逆に否定的に扱われることが自己否定感の深刻な契機になる。この点が強く感じられたエピソードでもある。

  • エピソード:「パン販売を通じて」(太田)

  木曜日は上田でのパン販売の日-初めて来店される親子のお客さん。Aさんにパンの袋詰めをお願いしたところ、少しの間合いがあって「うん」と頷いて、左手にパン袋を持ち右手に渡したパンをひとつずつ袋に入れて、入ったのを確かめるように丁寧に。そしてポイントカードのスタンプもスタンプの持ち方を直してあげて「ここですよ」と指差して、軽く手を添えて押してくれました。

  こんな素振りを見ていたお客さんの女の子からバイバイと手を振られるとAさんも嬉しそうにバイバイと。きっと女の子は、Aさんが応援されて、できることを一生懸命している姿に「すごいなぁ」と感じたからこそのバイバイなのだろうと率直に感じました。

  • 解釈 エピソードから広がる視点

  子どもたちは大人への憧れを持って生きている。1)身体の大きさや強さ、2)できる能力、そして3)一生懸命に頑張る姿への憧れであろう。一方、私たち支援職には、「この子らを世の光に」との命題がある。

  このエピソードは、障害の重さにめげずに、支えられながら努力する姿が心動かすものを生み出す、と語っている。女の子の「バイバイ」の奥にある思いをどう受け止めるか。エピソードでは表現されていないが「バイバイ」に感じるものがあって綴られたものである。この女の子は幼いなりに、この人は大人なのに私ができそうなこともできない。なぜ?それに教えられても下手だけど、一生懸命にやっている。なんか魅せられてしまう。こんなやり方も“一生懸命”っていうんだ、と感じたことだろう。

  これは受けとめ側の人生の歩みによって培われるものと言える。恵まれた歩みが感性を磨くのではない。逆に苦労した人生が感性を磨くとも言い切れない。周りの誰にも、父にも母にも山谷がありながら、めげずに《あなたが大事》を注ぎ込み育ててくれた、この生い立ちが自分の感性を左右するものだろう。この点で、担当職員は育ててくれた家族や周りの方々に感謝の気持ちを持っているからこそなのだろう。

  • エピソードをつづる土壌が「世の光」だ

  私たちは育てられて今がある。私たちは今支援する側に居る。そして、Aさんを介して、女の子に、できないけど頑張っている姿を見せた。女の子にとって心動かされる経験なのだ。Aさんの生き方は「世の光」になっている。こんな風に感じさせられたエピソードである。