バードウォッチングNo.92 エピソードの捉え方

2023.8.22
日野青い鳥福祉会
理事 村瀬

はじめに

 だいぶ前の歌ですが、あるTV主題歌として使われていることを知り、懐かしく聞き返しました。「♪君と逢ったその日からなんとなくなんとなくしあわせ♪」その昔、スパイーダース・井上順さんが歌った馴染みの曲です。こんなほんわかとした暮らしぶり、しあわせぶりをエピソードで描けたらと願っています。

 日々の暮らしは悲喜こもごもの中にあります。エピソードを通して仲間と共に暮らす楽しさや新たな芽生えなどをすくい上げて、元気の素にしたいと思います。私たちは、きっと穏やかな暮らしを支える力が楽しさにあると感じているからなのでしょう。また暮らし方を変える力は、自分と周りとの関係から生まれると考えているからです。

 さらに、エピソードをその人の歩みとして残したいと思います。周りの環境も人も、プラスにもマイナスにも働きかけあって成り立っているようです。エピソードは、裏を返せば私たちの支援観とも言えます。エピソードと支援観とは表裏一体なのです。日々の暮らしは利用者と「私」との関係の反映です。こんな関りから「なんとなくしあわせ」と感じられる日々を提供したいと願っています。

暮らしぶりを大事にする潮目

 青い鳥は、30年前(1982年)に日野市手をつなぐ親の会が動き出し、そして20年前(2003年)に高等部卒業生の進路開拓する心意気で設立された法人です。

 この間、生活の場づくりから生活のあり方に力点が置かれるようになりました。いたらない実践ではありますが、令和に入り青い鳥利用者の暮らしを家族会ごとにエピソードとしてまとめてきました。実践の節目をまとめることで次のステップに立ち向かう心づもりをつくる機会とします。

 「青い鳥」での暮らしは、単に一日を消化するのではなく、楽しさがもう一回やりたいとの余韻を生み出すと捉えて、利用者の反響を大事にしています。障害によりできること、分かることに制約がありますが、私たちは一回性の一日を充実した場にすることで豊かに生きることを応援する立場にあります。

障害に伴う生きづらさとともに

 概して生活領域では、特別支援学校卒業後70歳代までの50余年の長期の支援期間を託されています。思春期、青年期、壮年期、老年期にわたりじっくり関わることで着実に変容する時間的な経過をたどります。

 この間、障害に伴う生きづらさが、日々の出来事の中に出てくることを承知して受け止めてゆきます。能力や社会性の未熟さ、またストレスから生じるそうせざるを得ない苦しさを推し量りながら深追いや負の上塗りに陥らないように心がけています。障害者であっても、努力も頑張りも我慢も時に必要になるのですから、その方に合った個別の関りで見守り、支える視点を生み出していきます。

 とはいえ、関わりの正解が分かりにくい領域ですから、関係者が具体的に振り返ることで、どうあったら良いか模索する姿勢で臨んでいます。障害を正しく知って、個人差を承知して適切さを確保してゆくことになりますが、実際には暮らしやすさに向けて日々の出来事を確かめながら手探りで進めています。

エピソードを材料に

 日々の実践を日報的な記録で済ますだけではなく、エピソードとして個別のやりとりをまとめる機会を設けています。その場に立ち会っていないご家族もイメージできるようにエッセンスではなく具体的なやりとりを再現し、担当職員の主観を大事にした内容としています。現場の担当者がその場で心揺さぶられたことを「私は~と感じた」主観にこそ現場の知恵が埋まっているのでしょう。この実践の手応えが手探りの素材になっています。

 さらに、家族との連携にとどまらず、職員養成の教材としています。職員間の読み合わせを通じて、視点の持ち方、関わり方、受けとめ方、解釈の幅、利用者ご当人のリアクションの見せ方等々、個々の職員の違いを知り、どう修正していくか考える時間を生み出しています。支援現場は、日々の凸凹に出会って、その場のタイムリーな対処を求められるなどマニュアルではことが済まないだけに、実践力を養う機会になります。

エピソードの意図

 エピソードを媒介に、日常の周りの人たちとのやりとりの中に人の幸せがあることを伝えたいと思っています。誰もが、できることや分かることの能力的な幸せを味わっています。また、それとは違う幸せも感じています。特に知的障害を持つ方たちにとって対人関係から注ぎ込まれる安心と満足による幸せ感が大きいことを実感しています。

 こんななつき合い方があって、こんな暮らし方があって、楽しんでいる、感謝している、余韻が残っている姿をエピソードで語っています。具体的な日々の感情の発露に出会うとき、私たちは、こんな受け止め方も、解釈も、これって結構いいものだと思います。

 エピソードは支援の感性が詰め込まれています。それは相手の気持ちを汲み取る知恵です。気持ちが適切に汲み取られると手ごたえを得て、互いにうれしくなります。さらに支援員としての地力を身に着ける土壌と言えます。

 関わりを通じて、この人たちの歩みがより豊かになることが目的です。エピソードは「目に見える成果」ですから青い鳥のエピソードを通じて課題を共有する方々と語り合えたらと願っています。