所長代理 村瀬
「どうすれば福祉のプロになれるか」(久田則夫)、20年前の本だがご指摘にうなづかされた。
1、「利用者に学ぶ」精神の基盤
差別の中で無力化されてきた米・黒人の公民権運動を端に派生したエンパワメント思想が、実業界の「顧客満足」の考えに広がり「実践(失敗)に学ぶ」視点が職業人の心得として定着した。
さらに福祉の世界でも、障害者は「自分で何もできない人」との保護的援助観に影響を与え、個別ニードや主体性に着目する支援観に反映されている。
2,思いをもって暮らしている生活者
支援は、利用者の主体性、気持に焦点を当てる関わりが前提になる。が、現実の障害は、自分の思いを的確に把握し、意思表示が困難な事態も生む、また表現された思いだけでは、生活の質の向上に結び付かないことも実感する。
そこで潜在的な思い(ニーズ)の掘り起こしが大事になるとの指摘である。日々、障害特性、成育歴、そして行動傾向とその背景要因等を承知して本当のニーズを探る立場で現場を担っている。
一方で、「記録を見ればサービスレベルが分かる」「記録はサービスを映し出す鏡」と位置付けている。記録は「利用者に学ぶ」実践のベースであり「ポイントを押さえた上で簡潔に記す」ことが求められる。「いつ」「どこで」「誰が」「どのような状況で」「どのような行動を」示したか。さらに支援として「どう関わったか」「その結果は」の客観的事実を踏まえ、「どう考えるか」「どう判断するか」を内容とする。さて、実践レベルでどうできているだろうか。
3,生活支援の社会的な評価を得るためには「目に見える成果」が必要
生活支援職は、コロナ禍でエッセンシャルワークと呼ばれたりするが社会的評価が低い。評価できる形で実績を示してこなかった。「忙しくてできない」「時間がない」等の後ろ向きの定番の反応をしてきた。さらに典型的な反論として、「福祉の職場は一般企業と違い業績を目で見える形に示せない部分が多い」と福祉の特殊性を言い訳にしてきた。確かに実績を数値化して示すのは難しいし、その成果主義の弊害もある。
ここで「目に見える成果」の提示の仕方を示された。気持ちの豊かさや情緒安定の歩み等サービスの質的な向上を整理する場合である。観察記録を取ることから始まり⇒データー分析⇒要因の仮説⇒仮設的な対応⇒実践経過・進捗状況⇒文章化して結実する。文章化は見える化であり、見えるから社会的な評価対象となる。さらに、成果はサクセスストーリばかりではない。失敗を検証し指針を示すことの大事さを強調されている。
公共事業も適切性の評価をする時代、福祉も税金で運営されているわけで、「費やしたコストに見合う成果」を求められる時代との認識に頷いた。私たちは日々の支援の出来事をエピソードとしてまとめている。私との関わり方、私の、そして相手の思いの表れである。エピソードで語られる姿は彼らの生き方であり支援の「目に見える成果」である。生きづらさを抱えながらの一歩に感ずるものがある。